火災保険で家の修理
――業者に騙されて危うく犯罪者になりかけた話

1.火災保険を使った修理にかかわる詐欺が増加する背景

近年、火災保険を使った修理にかかわる詐欺(以下、「火災保険詐欺」といいます)が増えています。
代表的な内容としては、以下のようなものが挙げられます。







  • 暴風、豪雨、、雪害などで建物や財物に被害を受けた際に、工事業者にそそのかされて、これらの災害とは関係のない部分の修理も行ったうえで保険金を不正請求する。
  • 「保険金が支払われる」という工事業者の誘いに乗って工事を依頼したものの、その後工事代金を工事業者が持ち逃げし音信不通となる。

  • 特に前者の場合は、工事業者だけでなく、保険契約者や保険金を受け取る方も虚偽の申告をしたこととなり、知らない間に詐欺の片棒を担がされていることになるのです(参照1)

    国民生活センターは、2012年に火災保険詐欺についての注意喚起を促す発表をしましたが(参照2)、その後も火災保険詐欺は増え続け、2017年の発生件数は、2008年の30倍に増加しました。

    詐欺が増加する背景の1つには、近年、大型台風やゲリラ豪雨などによる災害が増えていることが挙げられます。大規模災害の後は、火災保険詐欺にかかわる業者が一気に活動を開始します。2012年に国民生活センターが注意喚起したきっかけは、前年の東日本大震災によって火災保険詐欺が急速に増加したためです。今後も地球温暖化等の影響で、台風やゲリラ豪雨が増加する可能性があり、火災保険詐欺の増加が懸念されます。

    もう1つの背景は、人口の高齢化に伴い一人暮らしの高齢者が増えたことです。近くに相談相手のいない高齢者は狙われやすい傾向があります。
    国民生活センターのデータでは、男性の相談者の約75%以上、女性の相談者の約70%以上が60歳以上の高齢者となっており、振り込め詐欺など特殊詐欺と似た被害状況になっています(参照3)

    また、増加の背景には火災保険の補償範囲が広がっていることも挙げられます。近年の火災保険は、特約などを付帯することで、多様な補償が提供されていることから、予想外に保険金を受け取ることができるケースもあるため、保険加入者に対して「これも保険金が支払われる」とアドバイスしたり、請求をサポートしたりすることで、その手数料やアドバイス料などを取る業者が出てきたのです。

    注意が必要なのは、補償の対象となる事故や災害によって損傷した家屋や家財の復旧費用については保険金が支払われますが、経年劣化による損傷は補償の対象とはならないことです。

    2.火災保険詐欺の事例

     

    では火災保険を使った詐欺等をはたらく業者はどのような手口を用いるのでしょうか。いくつかの例を挙げてみます。


    1)経年劣化を「火災保険の補償の対象となる」と言って保険金申請を持ち掛ける

    特に多いのは、業者が「経年劣化による損傷も保険金が支払われる」と言って保険金請求をそそのかす例です(参照1)。「保険金で住宅修理」などとチラシでったり「近所で屋根の補修工事をしているので点検サービスに来た」と言って近づき、「保険金が支払われるので自己負担がない」と言って修理・工事をさせようとします。

    火災保険で補償の対象となる事故や災害によって損傷した家屋や家財を修理した費用については保険金が支払われますので、「保険金で住宅修理」というのは嘘でありません。問題は、補償の対象とならない損傷が含まれる場合です。例えば、経年劣化による家屋の損傷は補償の対象となりません。心配になって保険契約者が「経年劣化は補償対象外では?」と訊ねると、「大丈夫、みんなやってますから」と安心させようとする業者がいます。

    台風などの被害に遭われた際に、災害による損傷部分と経年劣化部分も併せて修理することは問題ありませんが、修理費用については保険金が支払われる部分と支払われない部分があることを理解しておく必要があります。

    特に気をつけたいのが、屋根や雨樋、床下などの普段見えづらい部分です。壁などの損傷は目につきやすく、経年劣化か自然災害による損傷かが比較的見分けやすいのですが、普段見えづらい部分はその見分けがつきにくく、そこにつけこむ業者にとってはしやすい材料となります。また、屋根や雨樋などの高い位置の補修は、足場を組む必要があるために修理費が高くなり、工事代金を水増ししやすくなります。

    虚偽や水増しによる保険金請求が判明した場合、保険会社から保険契約を解除されたり、支払った保険金の返金が求められたり、場合によっては詐欺罪に問われる可能性があります。詐欺罪については、未遂の場合でも10年未満の懲役刑になる可能性があります。


    2)保険会社と交渉できると言い、保険会社の交渉を一任させるように言ってくる

    火災保険のトラブルで多いのが、保険金請求手続きの代行や交渉等をサポートしてもらった場合の手数料にかかわるものです(参照4)。 災害直後は誰もがパニック状態です。心身の整理がつかないまま片付けや生活の立て直しなど多くの対応に追われ、火災保険等の保険金を請求する余裕もない方がいるのが実情です。そこに「面倒な手続きは全部やります」と言われたら、ついお願いしたくなる方もいらっしゃると思います。特に、一人暮らしの高齢者の方々にとっては、熱心にトークを展開されたり、威圧的な態度を取られたりすると、「そこまで言うなら」「早く帰ってもらいたいから」と任せてしまいがちです。

    しかし、こうした依頼をすることで、法外な手数料やコンサル料などを請求される例が後を絶ちません。善意でサポートをしてくださる方々もいますが、そもそも原則として、火災保険における保険金請求手続きは、保険金を受け取る本人しかできません。上述のようなサポートを受ける場合も、保険金請求の書類作成のサポートといった内容に限られます。また、こうしたサポート部分に代金が発生したとしても、これについては保険金の支払対象とはなりません。


    3)被害状況調査を含む完全成功報酬をったコンサル型の契約を持ち掛けてくる

    2)と同様の例として、「火災保険コンサルタント」といった業者が被害調査や保険会社との交渉を含めて成功報酬を持ちかける例があります。火災保険コンサルタントを利用する場合は、「申請サポート」なのか「申請代行」なのかを確認する必要があります。

    「申請サポート」の場合は、被害物件の調査や被害状況の記録、修理範囲や工事の工法説明などについてはサポート可能です。一方で、保険金に関する申請書の作成や申請は、保険契約者が行う必要があります。申請書の取り寄せや代筆といった「申請代行」ができるのは弁護士だけですのでご注意ください。
    また、「申請サポート」の契約では、成功した場合に保険金の何%を支払うという契約料が提示されることが一般的です。50%を超える契約料を取る例もあり(参照2)、100万円保険金が支払われても手元に残るお金は50万円ということもありえます。こうした場合、保険金では修理工事の代金が足りず、貯金を崩したり、修理を諦めるといった状況にもなりかねません。火災保険コンサルタントなどのサポート事業者との契約は慎重に行ってください。


    4)想定した保険金が認定されない場合、「違約金」を請求してくる場合も

    また、中には保険会社が認定した金額が修理工事の見積もり金額に達しなかったため、保険契約者が工事を実施しない旨をサポート事業者に伝えると、「違約金として、受け取った保険金の30%を支払ってほしい」と要求してきたり、契約時に「お金は一切かからない」と何度も強調していたにも拘らず、一転「契約時に違約金について承諾している」と主張してきたりするケースもあるようです。

    また、サポート事業者は工事業者と組んでいる場合も多く、それを知らない保険契約者が保険金を受け取った後、別の工事業者に工事を頼んだところ、違約金を請求された例もあります(参照4)

    3.火災保険詐欺やトラブルに遭わないようにするポイント

    こうした火災保険詐欺やトラブルに遭わないようにするポイントとしては次のようなことが挙げられます。


    1)「自己負担ゼロ」という言葉を簡単に信じない

    まず、火災保険は補償対象となる事故や災害による損害を補償するもので、経年劣化は補償対象外です。また、損害額が一定額以上でないと保険金が支払われない場合もあります。「修理にかかる自己負担額はゼロ」と言われた場合も、本当にそうなのか、保険契約の内容をよく確認してから判断することが重要です。仮に自然災害等による損害が生じた場合も、損害発生から年月が経っている場合は、経年劣化と判断され、保険金が支払われない可能性もあります。「自己負担ゼロ」という言葉に惑わされないよう、注意が必要です。


    2)契約書を作成する

    悪質な業者は、被災後の大変な状況に置かれた方々を狙って話を持ちかけます。口約束だけでどんどん進めようとします。大変かもしれませんが、必ず契約書の作成を依頼し、契約内容の説明を受けるようにしましょう。わからないことは質問し、曖昧な返事しか返ってこない場合は、契約をしないようにすることが望ましいでしょう。また、契約書を作成した場合も、肝心の部分が読めないような細かい文字で書かれていて、内容を十分把握できないこともあります。この結果、例えば工事業者が作成した見積もり内容について、経年劣化等による損害の修理が含まれることで火災保険の補償対象外となる部分があることが分かり、工事業者に工事は実施しないことを申し出ると、違約金や解約料を請求されるといったケースも発生しています。契約書をよく読むと、違約金や解約料の内容が細かい文字で目立たないように書かれていたりする場合があるので、注意が必要です。


    3)すぐに着工するように急かしてくる修理業者は避ける

    事故や災害に遭われた後の復旧工事は、誰もが早く進めたいものです。一方で、災害が大規模になるほど、復旧工事はすぐに着工できないのが実態です。「絶対に保険金で修理できるから早く工事契約を結んでほしい」と急かしてくるケースがありますが、契約内容も十分に説明しないまま着工を急かすのは怪しい業者と考えられます。また、保険金を受け取る前に着工を迫る業者もいます。保険金が確定しない限り、工事着工の契約は結ばないようにする方が安全です。


    4)保険金の「申請サポート」について手数料が高額と感じた場合は再考する

    火災保険の保険金請求については、原則として保険金を受け取る権利のある方しかできません。また、保険金の申請サポートに関する契約において火災保険コンサルタントが受け取る契約料は、保険金の2割から6割に上ることもあります。高額に感じた場合は、契約しないか、複数の業者やコンサルティング会社に相見積もりを取ることが望ましいです。


    5)虚偽の報告をしない

    「経年劣化の損傷も保険金で修理できます。みんなやっています。」と、保険金請求に関して虚偽の申請をさせるような業者は相手にしてはいけません。こうした業者に「保険会社とやり取りした経験があるので、あとは任せてください」と言われても、一任してはいけません。保険金請求を代行した業者が虚偽の保険金請求をしたために、知らないうちに詐欺に加担させられるおそれもあります(参照5)。  


    6)追加の工事を勧めてくる

    「せっかく保険金が出るのだから、他の場所も修理しておきませんか」などと言って、不要な工事を勧めてくる業者も要注意です。保険金が支払われる対象となる被害や損傷ではない場合、自己負担での工事となります。見積もりが高いと思ったら契約に進まず、他の信頼できる施工業者や建築士など、別の専門家の意見も聞いて判断するようにしましょう。


    7)会社の実態を確認する

    チラシの投や飛び込み営業で火災保険の保険金による修理を勧められた場合は、ホームページなどで会社所在地や電話番号、代表者名などを確認します。また過去実績などの掲載があるかも確認すべきポイントです。会社所在地がわからず、電話番号しか掲載されてない場合などは、注意が必要です。可能であれば、会社所在地もインターネットの地図検索などで確認しておくことが望ましいです。実態があっても設立間もない会社の場合も、契約は慎重に進めたほうがいいでしょう。

    4.まとめ

    火災保険詐欺の被害が増えています。特に、大規模な自然災害が発生した直後の混乱期等に、一人暮らしの高齢者などが狙われます。火災保険の保険金は、補償対象となる事故や災害で損害が発生した場合に支払われるものです。経年劣化で起こった破損等は補償対象とはなりません。工事業者や火災保険コンサルタントが「うまくできます」「みんなやっています」と言っても、相手にしてはいけません。自然災害等で家屋が被害を受けた場合は、まずは住宅を建築した建築会社や保険会社等に相談し、不自然に契約を急ぐ修理業者はきっぱり断るのがポイントです。

    実際に修理を行う際には、信頼できる修理業者を選択し、知っている業者がいない場合には複数の業者から相見積もりを取るなど、十分に検討のうえで修理を依頼することが望ましいです。

    万が一、悪質な施工業者や火災保険コンサルタント、保険金申請のサポート業者などと、修理・工事契約、保険コンサルタント契約といった契約をしてしまった場合は、8日以内であればクリーニング・オフで契約を解除できます。中には、クリーニング・オフはできないといった主張をする業者もいますが、こうした場合は、公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターや、消費者庁の消費者ホットライン「188(いやや)」に連絡するとよいでしょう。また、クーリング・オフは、8日間を過ぎているように見えても解除可能期間である場合もありますので、諦めずに消費者センターなどに相談しましょう。なお、クーリング・オフについては、2022年6月1日より、書面のほか、電子メールやUSBメモリ等の記録媒体、事業者が自社サイトに設けるクーリング・オフ専用フォームなどを通じて通知も行うこともできるようになりました(参照6)

    最後に、火災保険詐欺の被害に遭わないためには、日頃から契約している火災保険の内容を確認し、補償の範囲を把握したり、必要に応じて補償範囲を見直すといったことも重要です。ご契約内容の理解を深め、詐欺に遭わないよう注意していきましょう。

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